プロジェクトマネジメントとは、特定の目的を達成するため、スコープ(範囲)、コスト、品質、スケジュール(納期)などの要素を計画・実行・監視・制御し、限られたリソース(人・物・金)を最大限活用して成功に導くための体系的な手法・活動です。明確な「目的」と「期限」があるプロジェクトを成功させるために、進捗管理、リスク管理、コミュニケーション、リーダーシップなどが重要視されます。

画像参照:https://backlog.com/ja/blog/what-is-project-management/
プロジェクトコミュニケーションマネジメント
プロジェクトコミュニケーションマネジメントとは、プロジェクトに関わるステークホルダー(利害関係者)全員に対して、「正しい情報」を「正しいタイミング」で「適切な手段」で「確実に伝達・共有・管理する」ためのプロセス全体を指します。目的は、情報不足による誤解やトラブルを防ぎ、プロジェクトの目標達成(品質・納期・コスト)を確実にするために、円滑な情報流通を実現することです。
主な目的と重要性
- プロジェクト成功率の向上: コミュニケーション不足はプロジェクト失敗の主な原因の一つであり、これを防ぎます。
- 共通認識の形成: チーム全員が同じ方向を向き、共通のイメージを持つために不可欠です。
- 問題の早期発見と対応: 課題やリスクを早期に把握し、迅速に対応できるようになります。
主な活動プロセス(PMBOKに基づく)
- 計画 (Planning):
- 誰に(ステークホルダー)、何を(情報)、いつ(頻度)、どのように(手段)、誰が(責任者)伝えるかを定義する。
- コミュニケーションマネジメント計画書を作成する。
- 実行 (Executing):
- 計画に基づき、会議、報告書、ツールなどを活用して実際に情報を伝達する。
- 監視 (Monitoring & Controlling):
- 情報伝達が計画通りに行われているか、情報が適切に理解されているかを評価・調整する。
具体的なポイント
- ステークホルダーの特定: メンバーだけでなく、顧客、経営層、外部ベンダーなども含まれる。
- 適切なツールの選択: 状況に応じてチャット、Web会議、プロジェクト管理ツールなどを使い分ける。
- 仕組み化: 大規模プロジェクトでは、計画と実行を仕組み化し、継続的に改善することが重要。
このマネジメントは、プロジェクトの「動脈」とも言える重要な役割を担っており、効果的に実施することで生産性向上と成功に大きく貢献します。
プロジェクトリスクマネジメント
プロジェクトリスクマネジメントとは、プロジェクトの目標達成を阻害する不確実な事象(リスク)を事前に特定・分析し、影響を最小限に抑える(または機会を最大化する)ための計画・実行・監視を行う体系的なプロセスです。これは単に悪いこと(脅威)だけでなく、良いこと(機会)も含まれ、マイナス面は予防・低減し、プラス面は活用することで、プロジェクトの成功確率を高めることを目的とします。
主なプロセス(例)
Asana websiteやJooto website、Nulab websiteなどの情報に基づくと、一般的に以下のステップで構成されます。
- リスクマネジメント計画: リスク管理をどのように行うか(ツール、担当、頻度など)を定義します。
- リスク特定(洗い出し): プロジェクトに影響を与える可能性のあるリスク(脅威と機会)をブレインストーミングなどで特定します。
- リスク分析(評価): 特定したリスクの発生確率と影響度を評価し、優先順位を付けます(定性的・定量的分析)。
- リスク対応計画: 優先度の高いリスクに対して、具体的な対応戦略(回避、軽減、転嫁、受容、活用など)を立案します。
- リスク対応実行: 計画した対応策を実行します。
- リスク監視・コントロール: プロジェクト進行中にリスクの状況を継続的に監視し、必要に応じて対応策を見直します。
影響度の評価方法
右の計算式で評価できます・・・被害金額(影響度)× 発生確率
なぜ重要か?
- 予期せぬ問題への備え: スケジュール遅延、予算超過、技術的トラブルなどを未然に防ぎます。
- 目標達成の確実性向上: 不確実性を管理することで、プロジェクトの品質・コスト・納期(QCD)の目標達成を支援します。
- 機会の最大化: ポジティブなリスク(予期せぬ有利な状況)を捉え、プロジェクトの成果を向上させます。
PMBOK®における位置づけ
PMBOK (Project Management Body of Knowledge)では、プロジェクト目標に対する「不確実な事象または状況」とリスクを定義し、その管理プロセスを体系化しています。
つまり、プロジェクトリスクマネジメントは、プロジェクトを成功に導くための羅針盤のようなもので、問題が起こる前に手を打ち、万が一の事態にも柔軟に対応できる体制を整えるための不可欠な活動です。
ポイント
リスクの中でも優先度の低いものは、コストや労力、時間の面から残留リスクとして対策を講じない場合もあります。
キーワード
プロジェクトリスクマネジメントにおけるキーワードを下記に整理します。
RBS
RBS(Risk Breakdown Structure )とは、プロジェクトのリスクをカテゴリ別に階層的に分解・構造化し、漏れなく網羅的に洗い出して整理するための手法・ツールです。プロジェクトの目標達成を阻害する可能性のあるリスクを、大きなカテゴリー(外部リスク、技術リスクなど)からより具体的なサブカテゴリへと細かく分解することで、見落としを防ぎ、体系的なリスク分析と管理を可能にします。
RBSの主な特徴とメリット
- 網羅的なリスク抽出: 作業分解構成図(WBS)のように、リスクを細分化することで、潜在的なリスクを見逃さずに抽出します。
- 体系的な整理: リスクを「外部」「技術」「組織」「プロジェクトマネジメント」などのカテゴリに分類し、ツリー構造で可視化します。
- 発見の促進: 階層構造を見ることで、参加者が具体的なリスク事象を考えやすくなり、将来起こりうるリスクの予測と特定に役立ちます。
- WBSとの関連: WBSが「作業」を分解するのに対し、RBSは「リスク」を分解する点で異なりますが、類似の構造でリスク管理に活用されます。
- 適用範囲: 建築業界やIT分野など、大規模で複雑なプロジェクトのリスク管理で広く利用されています。
RBSの構成例
- Level 0 (最上位): プロジェクト全体のリスク
- Level 1 (第一階層): 外部リスク、技術リスク、組織リスク、プロジェクトマネジメントリスクなど
- Level 2 (第二階層): さらに下位の具体的なリスク(例: 外部リスクの下に「市場環境の変化」「法規制の変更」など)
この構造により、リスクの特定、分類、分析、対応策の立案を効率的かつ効果的に進めることができます。
コンティンジェンシープラン
コンティンジェンシープラン(Contingency Plan)とは、「不測の事態」や「非常事態」が発生した際に、被害を最小限に抑え、迅速に対応するための具体的な行動計画や手順のことです。自然災害、システム障害、サイバー攻撃などの緊急時に、従業員の行動、対応方法、報告先などを事前に定め、事業への影響を軽減し、早期の事業継続を目指します。BCP(事業継続計画)と混同されがちですが、こちらは「事業の継続・復旧」に焦点を当てているのに対し、コンティンジェンシープランは「緊急時の初動対応」に重点を置いている点が異なります。
主な内容
- 想定されるリスク: 地震、火災、テロ、システム障害、経済変動など。
- 具体的な行動: 「誰が」「いつ」「何を」「どうする」のかを明確化する。
- 目的: 被害の最小化、事業の早期復旧、リスクへの迅速な対応。
BCPとの違い
- コンティンジェンシープラン: 緊急事態発生直後の「初動対応」に特化。被害を最小限に食い止めるための緊急時対応計画。
- BCP: 緊急事態発生後、事業の「継続」や「早期復旧」に焦点を当てた、より広範な計画。中核事業を維持するための活動も含む。
重要性
VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代において、予期せぬ事態への備えとして、その策定・実行の重要性が増しています。策定後も社内周知や訓練を行い、実効性を高めることが不可欠です。
コンティンジェンシー予備
コンティンジェンシー予備とは、プロジェクトで「既知の未知のリスク」(予測はできるが、発生するか不明な事態)が発生した際に、その対処のためにあらかじめ確保しておく予算や期間の余裕分のことです。これはPMBOK®︎(プロジェクトマネジメント知識体系ガイド)で定義され、プロジェクトマネージャーの裁量で利用でき、リスク対応計画(コンティンジェンシープラン)の実行に使われます。想定通り発生しなければ解放され、より不測の事態に備える「マネジメント予備」とは区別されます。
詳細
- 目的: 予期されるリスク(例: 手直し、一部の遅延、仕様変更の可能性など)が現実になった場合に備え、プロジェクトが計画通りに進むようにするためのバッファー(緩衝材)です。
- 対象: リスク分析によって特定され、リスク登録簿に記載される「既知の未知」(Known Unknowns)と呼ばれる事象。
- 使われ方: プロジェクトマネージャー(PM)の裁量で利用可能。リスク発生時のアクションプラン(コンティンジェンシープラン)を実行するために使われます。
- 予算: プロジェクトのコストベースライン(費用とスケジュールの基準線)に含まれることが多いです。
- 「マネジメント予備」との違い:
- コンティンジェンシー予備: 既知の未知のリスク用。PMの裁量で利用可能。
- マネジメント予備: 予期できない事態(未知の未知)用。スポンサーの承認が必要で、プロジェクト総予算には含まれるがコストベースラインには含まれない。
具体例
- 「この機能の実装で30%の確率で手直しが発生し、20時間の追加工数が必要になる」と予測した場合、その20時間分の工数や費用をコンティンジェンシー予備として確保する。
- 想定していたリスクが結局発生しなかった場合、その予備費は解放(解放)され、他の用途に転用されたり、予算に戻されたりします。
まとめると
コンティンジェンシー予備は、「もしこれが起きたら困るから、そのための準備をしておこう」という、特定のリスクに対する備えであり、プロジェクトを柔軟かつ確実に進めるために不可欠な要素です。
脅威に対するリスクコントロール
脅威に対するリスクへの対応策は下記のようなものがあります。
| 対応策 | 概要 |
|---|---|
| リスク回避 | リスクの根本原因を取り除き、リスクを発生させないようにする。 (例:危険な業務を行わない) |
| リスク移転 | リスクを第三者に移す。(例:保険加入、外部委託) |
| リスク軽減 | 発生確率や影響度を小さくする。 (例:セキュリティソフト導入、従業員教育、脆弱性対策) |
| リスク保有 リスク受容 | リスクをそのまま受け入れ、許容範囲内と判断する。 (例:費用対効果が低い場合など) |
ステークホルダマネジメント
ステークホルダマネジメントとは、企業やプロジェクトに関わる「利害関係者(ステークホルダ)」を特定・分析し、良好な関係を構築・維持・管理することで、ビジネスやプロジェクトを成功に導くためのプロセスです。ステークホルダのニーズを理解し、期待と影響力を考慮したコミュニケーションを通じて、抵抗を最小限に抑え、支援を最大化する戦略的な活動を指し、PMBOK®ガイドではプロジェクトマネジメントの重要領域の一つとして定義されています。
主な目的と重要性
- プロジェクトの円滑な推進: 否定的な意見を持つステークホルダの抵抗を減らし、支持を得てスムーズに進める。
- ビジネスの持続的成長: 利害関係者の満足度を高め、信頼関係を構築し、企業の理念や目標達成を支援する。
- リスクの軽減: 潜在的な対立や問題発生を防ぎ、プロジェクトの失敗リスクを低減する。
プロセス(PMBOK®準拠)
- ステークホルダの特定: プロジェクトに関わる個人、グループ、組織を洗い出す。
- ステークホルダの分析: プロジェクトへの関心度、影響力、態度(支持的か否定的かなど)を分析する。
- ステークホルダのエンゲージメント(関与)計画の策定・実行: コミュニケーション戦略を立て、関係を管理する。
- エンゲージメントの監視・調整: 関係が適切に機能しているかを確認し、必要に応じて計画を修正する。
具体的なアクション
- コミュニケーション: 定期的な対話、報告、会議を通じて情報を共有し、ニーズを把握する。
- 期待値の調整: 誤解を防ぎ、現実的な期待を持ってもらうように働きかける。
- 問題解決: 衝突が生じた際に、関係者間の調整を行い、解決策を提案する。
対象となるステークホルダの例
- 顧客、従業員、経営層、株主
- サプライヤー、パートナー企業
- 政府機関、地域社会
プロジェクト調達マネジメント
プロジェクト調達マネジメントとは、プロジェクト遂行に必要な「ヒト(人材)」や「モノ(資材・設備)」、サービスなどを外部の組織(サプライヤー、ベンダーなど)から獲得し、その選定から契約、実行、完了までの一連のプロセスを管理することです。これは、社内リソースだけでは不足する場合に、適切な品質・価格・納期で外部リソースを調達し、プロジェクトの成功確度を高めるために不可欠な活動です。
主なプロセス
PMBOK(プロジェクトマネジメント知識体系ガイド)では、以下のプロセスに分けられます。
- 調達マネジメントの計画: 何を、いつ、どのように調達するかの方針を決定し、「調達マネジメント計画書」を作成する。
- 引合計画: 調達する品目の要求事項を定義し、発注先候補を選定するための評価基準(RFP、RFQなど)を作成する。
- 引合: 提案依頼書などを発行し、発注先候補から見積もりや提案(プロポーザル)を取得する。
- 発注先選定: 取得した提案を評価し、最適な発注先を決定する(価格だけでなく、品質や能力も考慮)。
- 契約管理: 契約内容に基づき、サプライヤーとの関係や納品物のパフォーマンスを監視・管理し、必要に応じて変更・是正を行う。
- 契約完了: 契約上の義務がすべて履行されたことを確認し、契約を正式に完了させる。
なぜ重要か
- コストと品質の最適化: 適切な外部調達により、コスト削減と成果物の品質向上を図る。
- リソースの確保: 社内リソースが不足する場合でも、必要な人材や資材を確保できる。
- リスクの低減: 契約管理を徹底することで、サプライヤーとのトラブルや納品遅延のリスクを軽減する。
プロジェクト調達マネジメントは、単なる「買い物」ではなく、プロジェクトの成否を左右する重要な戦略的活動として位置づけられています。
キーワード
プロジェクト調達マネジメントにおけるキーワードを下記に整理します。
RFI
RFIとはRequest For Information(情報提供依頼書)の略で、企業がシステム導入や業務委託などを検討する際に、複数のベンダー候補から製品やサービスに関する基本情報、技術情報などを幅広く収集するために送る文書です。まだ要件が固まっていない初期段階で使われ、自社の課題解決に最適なソリューションを見つけるための「情報収集」が主な目的で、最終的な契約や発注を目的とするものではありません。
RFP
RFPとは「Request for Proposal(提案依頼書)」の略で、企業がシステム開発や業務委託を発注する際に、候補となる複数の業者(ベンダー)に対して、自社の要望や要件、予算、納期などを具体的に示し、最適な提案を依頼するための文書です。これにより、各ベンダーからの提案内容を公平に比較・評価でき、プロジェクトの目的達成と適切なパートナー選定を可能にします。
RFQ
RFQ(Request for Quotation)とは「見積依頼書」のことで、企業が製品やサービスを購入する際、複数のサプライヤー(供給業者)から具体的な価格、納期、支払い条件などの見積もり情報を収集・比較するために送付する正式な文書です。仕様や数量、納期、支払い方法などを詳細に記載し、ベンダー(供給元)が正確な見積もりを作成できるようにします。

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